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お花見役者

お花見役者
又さんが、役者らしく、派手に見得をきるのは、毎年春の、お花見のときだけらしい。桜が咲く頃になると、急にソワソワしだして、頭が痛いの、おなかがどうしたの、と言っては舞台をやすみ、町内の仮装行列に夢中になるのである。当日、又さんの扮(ふん)する大石内蔵之助や、お祭り佐七が、素人の若い衆の中でとびぬけて立派なのは当たり前である。そのために衣裳、床山にたっぷり身銭を切っている。第一、なんといっても長年の役者。タンカランときまれば、花見客には大受けだし、町内の人たちも鼻が高いから、又さん、又さん7とよくもてる。「それにしたって、商売人が、ど素人にまじって…」と、父はにがにがしげに舌打ちするけれど、母はかげで私に、「…しんそこ気が小さいから、たらふくお酒を飲まなけりゃ、芝居ができないんだよあの人は…。あんなに気が弱いくせに。役者が好きでやめられないなんて?因果なことさねえ…」と、同情していた。翌日、又さんは舞台の隅で相変わらず、伏眼がちで、モソモソと台詞(せりふ)を言っていた。もちろん?素面(しらふ)である。

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2008年04月30日 22:13に投稿されたエントリーのページです。

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